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大阪地方裁判所 昭和55年(ワ)6990号 判決

原告(反訴被告)

株式会社三景商事

右代表者

村川栄光

右訴訟代理人

細見茂

橋本二三夫

被告(反訴原告)

井角則夫

右訴訟代理人

中島三郎

中島志津子

主文

一  原告(反訴被告)の請求を棄却する。

二  反訴被告(原告)は、反訴原告(被告)に対し、別紙図面記載の土地につきされた枚方市杉山手一丁目四六一七番一三六山林二四三平方メートルの表示登記の抹消登記手続をせよ。

三  訴訟費用は本訴反訴を通じ原告(反訴被告)の負担とする。

事実《省略》

理由

本訴及び反訴につき一括判断する。

一本訴請求原因第一、二、三項の事実(反訴請求原因第一項の事実)は当事者間に争いがない。

二〈証拠〉を総合すると、被告は、昭和四五年七月二八日訴外会社との間にその所有の本件係争土地を含む土地を四六一七番二九五土地として買い受ける旨の売買契約を締結したことを認めることができ、また、被告において右売買契約に伴い、同土地につき同年八月一二日その旨の所有権移転登記を経由したことは、当事者間に争いがない。

三〈証拠〉を総合すると、原告は、昭和五〇年一二月一六日訴外会社との間で同会社に対する貸金債権の担保としてその所有の本件係争土地を含む旧四六一七番一三六土地を目的とした代物弁済の予約を締結していたが、昭和五三年一一月二五日右債権の弁済に代え同土地の所有権取得に必要な手続を履践するに至つたことを認めることができ、また、原告においてこれに伴い、同土地につき昭和五四年八月二〇日これに先立つ昭和五〇年一二月一七日にされていた代物弁済予約を原因とする所有権移転請求権仮登記に基づく所有権移転の本登記を経由したことは、当事者間に争いがない。

四以上の認定によれば、本件係争土地は、同一の土地から前後二回にわたり重複して分筆のうえ登記され、その結果、本来一個の土地であるのに、重複した二個の表示登記を備えるに至つていたところ、被告は、同土地の所有者であつた訴外会社との間に原告より先に売買契約を締結してこれにつき所有権移転登記を経由したが、右所有権移転登記を右二個の表示登記のうち後にされたそれに基づき続由し、これに対し、原告は、右訴外会社との間に被告より後れて代物弁済契約を締結してこれにつき所有権移転登記を経由したが、右所有権移転登記を前記二個の表示登記のうち先にされたそれに基づき経由したものであるということができる。そこで、このような事情のもとにおいては、原被告のいずれが本件係争土地の所有権取得をもつて相手方に対抗することができるかにつき以下検討する。

同一不動産につき重複して複数の登記用紙を開設することは一不動産一登記用紙主義(不動産登記法一五条)に反し許されないことであるから、既に表示登記がされている土地につき重ねて分筆による表示登記の申請がされたときは、右申請は却下されるべきものであり(同法四九条二号)、また右申請が却下されることなく重複登記が生じた場合には、特段の事情がない限り、後の登記につき登記用紙を閉鎖し、あるいは、これに基づく新たな登記申請を却下することにしなければならないことはいうまでもないことである。しかし、本件の表示登記のように、誤つた分筆のため、先にされていた登記と重複してされるに至つた登記であつても、それが実在する不動産を正しく表示しているものであるときは、先にされている表示登記と同じく、登記としての実体上の有効要件に欠けるところがないといわなければならないから、不動産登記制度が不動産取引の安全と円滑とに資するために設けられた制度であることに照らしかんがみるときは、これをもつて権利の得喪変更等に関する権利関係の登記の基礎となる登記として無効であり、ひいては、これを基礎としてされている権利関係の登記も当然無効であるとすべきものではなく、右権利関係の登記の有効無効は、その登記にかかる実体的権利関係が存在するか否かによりこれを決し、右権利関係が存在するときには有効とし、これが存在しないときには無効とすべきであると解するのが相当である。

そこで、本件につきこれをみるに、さきに認定したところによれば、被告による本件係争土地の所有権取得登記の基礎となつた四六一七番二九五土地の分筆による表示登記は、本件係争土地という現実に存在する土地について開設されたものであつて、実体上の有効要件に欠けるところがないから、被告において本件係争土地を買い受け、これに伴い、右登記に基づき所有権移転の登記を経由した以上同登記は有効であり、ひいては、被告は、四六一七番一三六土地としての表示登記に基づく所有権移転登記はこれを経由していないとしても、本件係争土地の所有権取得をもつて第三者に対抗することができるものである。そうすると、訴外会社は、被告への本件係争土地の売渡と所有権移転登記の経由に伴い、これについてもはやなんらの権利をも保有しないものとなつたのであるから、前認定のように、その後に至りこれを原告に譲渡する旨約諾してこれにつき旧四六一七番一三六土地の表示登記に基づき所有権移転登記を経由したとしても、原告において本件係争土地の所有権を取得するに由ないものである。

以上により、本件係争土地は、被告の所有に属し、原告の所有には属しないものである。

五そうすると、原告は、本件係争土地の所有者ではないにもかかわらず、登記簿上本件係争土地を表示する現四六一七番一三六土地につき所有権移転登記を保有しているものであるが、このような表示登記が存続する限り、被告において本件係争土地を第三者に処分してその登記をしようとするとき、右第三者の不安を招いて処分の目的を遂げることができないなどの取引上の障害に遭遇することのあることも想像に難くないから、右表示登記の存在は、被告の本件係争土地所有権の妨害にあたるということができる。してみると、本件係争土地の所有者である被告は、所有権に基づき原告に対し現四六一七番一三六土地としての表示登記の抹消登記手続を求めることができるものである。〈以下、省略〉

(小酒禮 杉本孝子 木下秀樹)

図面〈省略〉

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